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ベンチャー企業分析

保育業界最大の問題に取り組む元ITベンチャー社長

■保育業界最大の問題「病児保育」に真正面から取り組むNPO

「NPO法人フローレンス」は、東京23区および近郊で病児保育事業を行っているNPO法人です。
子どもを育てながら働いている(働こうとしている)女性は増えています。特にリーマンショック以降、その傾向は強くなっていますが、保育園待機児童の問題ひとつをとっても、未だ解決していないところを見ると、社会的環境がまだまだ未整備であることは明らかです。何とか保育園に入れたとしても、子どもが突発的に熱を出したときなど、保育園では預かってもらえません。他の子どもたちへの影響や、保育士の人繰り等を考えると、保育園としてはやむをえないですが、仕事を持つ親にとっては大きな問題になります。

そこをフォローするのが「病児・病後児保育」であり、フローレンスが取り組んでいる事業です。
フローレンスでは、事前に会員登録をしておくことで、子どもが急に体調を崩した場合も「こどもレスキュー隊員」 と呼ばれるスタッフに預かってもらえます。当日朝8時までに連絡をすれば、100%対応をしてもらえます。

「熱が出ると預かってもらえるところがない」
「会社を休まざるを得ないので周囲に迷惑がかかる」
と悩みを抱えるワーキングマザーが多くいるにも関わらず、フローレンス設立以前、病児保育の問題は、社会的な問題として広く認知されていませんでした。当時、保育園数約3万に対して病児保育施設は500。圧倒的に施設数が足りない状況だったのにです。
今では、フローレンスの活動によって、各種メディアが大きく取り上げ始め、少しずつですが問題として認識され関心も高まってきました。また、国によって政策がつくられたりと、まだ発展途上ではあるものの対策が練られつつあります。

フローレンスの1番の特徴は、「施設を持たない」ところにあります。それによって、今までの病児保育事業が抱えていた「補助金依存」「大赤字」といった状況を乗り越えていきました。


■たどり着いた「脱施設型モデル」

同団体は、2004年に現在も代表理事である駒崎弘樹氏によって設立されました。大学在学中にITベンチャーの社長に就任した駒崎氏でしたが、周囲と同じように「IPOして成功する」「技術開発してイノベーションを起こす」ということに疑問を感じ、果たしてそれが自分のやりたいことなのだろうかと思い悩んだそうです。そして、そんな自分と向き合って出た答えが「自分は日本社会の役に立ちたい」ということ。その手段として行き着いたのが「ソーシャルベンチャーによる解決」だったのです。

肝心なのは、どのような問題の解決に取り組むのか。
事業領域を検討していたところ思い出したのが、ベビーシッターをしていた母親から聞いたお客さんの話でした。その話というのは、子供の熱で仕事を数日休んだところ会社から事実上解雇されてしまったというものでした。
当たり前のことをしているのに、それを受け入れてもらえない社会、これは大きな問題なのではないか。自分が小さい頃は近所の人に預けられていたが、今はもうそのような環境がなくなっているのだ。駒崎氏は、この問題を解決すべく、ひとり動き出したのです。

ITベンチャー社長を辞め、大学を卒業し、フリーターとなった駒崎氏は、各地の商店街を活性化するためのコンサルタントをしている知り合いの会社でアルバイトをしながら起業準備を進めていました。大学生インターンとともに有識者、関係者をまわってリサーチを行ったり協力・助言を得たり、さまざまな団体から助成金を集めたりと、時に厳しい言葉をもらいながらも着々と準備を進めていきました。

そんな中、病児保育施設を運営しているある小児科クリニックにお世話になった際に駒崎氏は、病児保育事業が抱える難問に突き当たりました。
子どもの病気という突発的な事象に対して、場所を確保して設備を整え、スタッフの質・適切な数を維持しながら、確実に人員(医療系人材も含めて)を配置することは容易ではありません。そこで自治体からの補助金が必要になります。しかし、そうなると利用料や人員配置等、国の取り決め通りに行わなければならず、どちらにしても採算が取れないという問題に突き当たってしまうのです。当時、全国の病児保育施設のうち9割が赤字であり、併設のクリニック等の利益で全体として経営を成り立たせているという状態でした。

固定費が大きすぎる。駒崎氏が目をつけたのは「家賃」でした。ここのコストを抑えることができれば経営は楽になるのではないか。そこで、知り合いの会社でアルバイトをしていた時のつながりで商店街の空き店舗を提供してもらい、そこを活用した病児保育施設の展開という事業にたどり着きました。

準備は進み、もう詰めの段階。ところが最後の最後で「待った」がかかってしまいました。それは区長の一言からで、覆すことはできませんでした。
もう諦めよう。
そう考えた駒崎氏でしたが、協力者からの助言がきっかけで、
「自分の目的は病児保育の問題を解決することであり、施設を作ることではない」
ということを再認識。施設を作ることはできなくなったけれど、それだけが全てではない。そして、フローレンスの軸となる脱施設型の病児保育事業が誕生したのです。

しかし、それでも病気は突発的であり需要が読めないことや、季節によって繁閑の差が大きいことなどから、ベビーシッターと同様のやり方をしていては施設型同様採算は合わなくなってしまいます。
そこで考えたのが、会費制(共済型)という方法です。フローレンスの理念を共有し、賛同してくれた方に利用者として会員になってもらいました。
また理念の共有により賛同し、協力してくれたのは利用者だけでなく、医師、弁護士、マーケター、保育士といった働く側である各専門家も当てはまります。「プロボノ」という(専門的な知識を持った)社会人が会社などに勤めながら自分の時間の一部を提供する社会貢献活動が最近話題に上ることも多いですが、まさにフローレンスはそのような方たちの活躍により支えられていたのでした。

フローレンスが参入してからというもの、様々なメディアで病児保育問題が取り上げられるようになり、社会問題として認識されるようになってきています。利用者からは多くの感謝の言葉が寄せられ、サービス提供地域は今も拡大中です。


■社会問題を解決したいという強いビジョンの共有

フローレンスの事業は、ワーキングマザーの切迫度の高いニーズに応える、非常に社会的意義の高い事業です。しかし、先述しましたが、これを1つのビジネスとして捉えると、様々な問題が生じます。子どもの病気に対する対応力も必要ですし、レピュテーショナルリスクも伴います。一方で、労働集約的な事業であるがゆえにスケールメリットが出にくい収益構造になっています。

このような問題がある中、フローレンスが大きく事業展開できているのは、そのビジョンに共感する多くの方々によって運営されているからではないでしょうか。
サービスを利用する人も、働いている方々も、1つの強いビジョンを共有し共感することにより、ビジネスとしては難しい点も乗り越え、継続的な運営ができているのでしょう。
フローレンスの事例は、社会的意義の高い事業の場合、強いビジョン、そしてそれに賛同してくれる同志の存在によって、事業を成り立たせることができることを示してくれているのではないでしょうか。

エムアウト  高野公美子
    高野公美子