ベンチャー企業分析
日本一F1層を囲い込むTGCの仕掛け人(前編)
日本最大級のファッションイベント『東京ガールズコレクション』(以下TGC)が9月5日に国立代々木競技場第一体育館で開催されました。
2005年に初めて開催されたTGCは今回で第9回を数え、10代から20代の女性を中心に来場者は2万人を超え、また協賛企業も22社と、回を重ねることに拡大してきています。
普段ファッション各誌と専属契約している人気モデルが一同に介して華麗にウォーキングする模様や、実際に人気モデルが着ている服を来場者がその場でケータイを押しながら購入していく光景は、各種メディアで広く報道され、普段あまりファッションに関心がない人でも目にすることが多くなってきたのではないかと思います。
ショーを運営している株式会社ブランディング(旧:株式会社ゼイヴェル)において、TGCは新しい仕掛けをする同社の代名詞でもありますが、ファッション業界やモバイル業界の中では、同社は「日本一F1層を囲い込んでいる企業」や「ケータイ通販の先駆者」として、あまりにも有名です。
同社は約700万人の女性会員(08年時点)を持つポータルサイト『girls walker』を軸に、EC事業や広告事業等を手掛けてきました。
一度特定ターゲットのマジョリティを取った同社は、その優位性を元にブランドプロデュース事業やマーケティング調査等も手掛けたり、あるいはF1以外にも顧客層を広げるためのメディアを次々に立ち上げたりと、女性ブランドメディア総合企業として、展開スピードも含めて今後も目が離せない企業です。
一度特定セグメントのマジョリティを取れば、クロスセルやクロスビジネスを優位に進められる。となるとやはりポイントは『girls walker』がマジョリティを取るまでの過程にありそうです。
それらをエムアウトで良く使用しているキーワードで集約すると、
1.既存参入企業が絶対やれないことをやる
2.ターゲットを絞り込む
3.持続可能な競合優位性を保つバックエンドを構築する
4.顧客視点でプロダクトアウトな業界を革新する
といった言葉が浮かび上がってきます。
まず1について触れたいと思います。
1.既存参入企業がやれないことをやる
同社は、当時の既存参入企業ならば、まずリスクが大きくて行わないという2つのことをしました。
それが「モバイル非公式サイトでの無料コンテンツによる囲い込み」と「ケータイ通販」です。
今でこそ「何がすごいの?」となってしまうこの意思決定ですが、まだケータイが小さなモノクロ画面だった2000年当時では、そう簡単に行えるものではありません。業界全体が有料月額課金モデルのサイトを次々に立ち上げるというベクトルに向いてしまうというのは当然の流れだったと言えます。
ケータイ公式サイトは当時、以下のような状況でした。
<公式サイト>
・メニューリストの上位にくれば導線は約束されていた
・月額課金のプラットフォームが用意されており、収益モデルが確立されていた
・通信キャリア側からも新しいコンテンツツール(例えば着メロやアプリ)が次々に導入されていった
・魅力的な収益モデルであった月額課金制においても、未開拓の領域(趣味等のカテゴリ)が
たくさんあった
つまり公式サイトの既存参入企業は、開拓されていないカテゴリのコンテンツを増やしていけばよかったのです。
一方で、非公式サイトやケータイ通販はというと、決して魅力があると言える状況ではありませんでした。
<非公式サイト>
・個人サイトや出会い系やアダルトサイトが蔓延し、顧客への信用がなかった
・検索エンジンはおろかQRコードもなく、直接リンクかURL直入力でしか導線がなかった
<ケータイ通販>
・将来市場としては魅力に感じつつも、PCサイトですら通販は一般的になってない
状況で、表現力が低いケータイではあまりに時期尚早だった
・課金決済システムを独自に用意する必要があった
こうした非公式サイトが不利な状況下で、『girls walker』が失敗すれば、当然これらはそのまま失敗の理由として並ぶことだったでしょう。
ベンチャーが生み出したビジネスモデルやサービスの中には、潜在ニーズはあるものの、実現する手段が未熟であったり、時期尚早すぎて市場に受け入れられなかったケースがごまんとあるのは否めません。
ただ逆に失うものがないため、既存事業者が取れない選択肢があるのも強みです。
発展の過程で、独自に顧客を開拓する過程の苦労やリスクを伴うのは当然ですが、かわりに公式メニューリストに載らない同サイトは、競合にほとんど研究されずに発展し、業界の人が知ることとなるタイミングでは、ある程度のマジョリティを囲った後ということになります。
次回の後編では、2以下のターゲットの絞り込みやバックエンドの仕組みなどについて解説いたします。
【皆川博信】


