トップ > 事業立ち上げのポイント > 第6回「キャッシュフロー」

事業立ち上げのポイント

第6回「キャッシュフロー」

事業計画におけるファイナンス関連について、今回は、キャッシュフローと利益の関係を理解する上で参考になりそうなことを、事例を交えつつ視点を変えながら述べていきます。

会計基準とは? ビジネスの共通言語
会計とは何なのでしょう?英語ではアカウンティングといいますが、アカウントは、その派生として「アカウンタビリティ(説明責任)」という言葉もあるように「説明する」ということです。

「儲かりますか?」という商売についての問いに対して、「ぼちぼち・・・」といった形容詞ではあいさつにしかなりません。株主、取引先、社員といったステイクホルダーによって、儲かり方の表現や事業の進捗の捉え方が違っても困ります。なので、売上はいくら、費用は・・・などと、数字にして説明していくわけですね。

その分け方、計上するタイミングを定めたルールが「会計原則」です。そしてビジネスに関わる人なら誰でも理解できるよう、共通言語で書かれたものが決算書です。どれくらいの規模の商売をしているのか一言、二言だけ示すとすれば、それは「売上」と「利益」ということになるでしょう。商売の内容が違っても、たとえ国が違っても、ビジネスの世界でなら誰にでも通じるようにするためのものです。

利益とキャッシュフローの違いは?
このようにして、会計のルールに基づいて説明される、事業の一定期間の成果を「利益」といいますが、これはキャッシュフロー(お金の流れ)とは一致しない事があります。もちろん一致することもありますが、ほとんど一致しません。

ビジネスの成果はお金で表され、それ以外のものになることはなく、異なるはずはないのにどうしてでしょうか。これは、ルールに基づいて説明する上で、会社の業績を一定の期間で区切るため、利益の認識とキャッシュフローとにタイミングの違いが出てくることがあるためです。違う側面から見てみましょう。

式で表すと<図1>のようになります。アンダーラインが異なる箇所を示しています。
80%81%93%90%7D%82P%81%40%83L%83%83%83b%83V%83%85%83t%83%8D%81%5B%82%CC%8E%AE.JPG
(減価償却という漢字を見ただけで会計が苦手になった方も少なくないのではないでしょうか。かといって、英語が分かりやすいとも言い切れませんが少なくとも書くのはカンタンだと思います)。

NI: net incomeの略。純利益
Depr: depreciationの略。価値が減ること、ドル安などの通貨の下落でも使われる単語
CapEx: capital expenditureの略。読みは「キャペックス」、資本的支出、いわゆる設備投資
Δwc: トイレではありません、working capitalのデルタ=運転資本の増減

なぜ違いが起きるのか?
キャッシュフローを求める過程で、利益に減価償却費を加えるのはどういうことなのでしょうか?具体例で見てみましょう。例えば50万円のサーバを買ったとします(設備投資)。機能向上のサイクルが早くなっていて、今では5年も使わないのかもしれませんが、大体5年間で償却するように決まっています。

つまり、支出を5年で按分して毎年10万円の減価償却費を5年間計上します。お金の流れをみると、お金はサーバを買ったときに一括で支払っているので、その後計上する減価償却費は実際に支出があるわけではありません。したがって、利益に減価償却費を加えたものがキャッシュフローになります。

75%25%90%7D%82Q%81%40%89%EF%8Cv%94N%93x%82%B2%82%C6%82%CC%94%EF%97p%82%C6%83L%83%83%83b%83V%83%85%83t%83%8D%81%5B.JPG

このように、年ごとに区切ると差がありますが、合計を比較してみていただければ分かるとおり、5年間の合計では費用とキャッシュフローは一致します。5年、10年の損益計算書を作ることがあれば一致するのでしょうが、通常の会計年度は1年、上場企業の開示は四半期ごと、経営の実務では月次決算でPDCAを行っていきますから、利益とキャッシュフローの差は常に起きることになるのです。

キャッシュフローに影響を与える事業計画作成上のポイント、ビジネスモデルによる違い
利益とキャッシュフローの違いは、事業特性によっても異なります。まず、減価償却と設備投資(+ Depr – CapEx)ではどうでしょうか。この差が大きいのは、巨額の投資を要する重厚長大産業です。一方、ベンチャーなどのスタートアップ段階にある会社、特にIT系のビジネスでは、クラウドソーシングの普及でサーバなどを持たなくても事業を立ち上げやすくなってきています。このような利用料はほぼキャッシュと同じタイミングで費用を計上するので、支出の面で見ると利益とキャッシュフローの差は小さくなってきます。

次に、売上代金の回収(-Δwc)はどうでしょうか。例えばB2Bでよくある「月末締の翌月末」という条件だと、これだけで平均の回収期間は45日にもなります。売上(利益)とキャッシュフローのタイミングが1ヶ月半はズレるという事です。

一方で、飲食などの「日銭商売」は基本的に回収までゼロ日であり、対して、仕入れ等の支払は通常後払いですから設備投資以外は資金繰りが基本的には楽なはずです。

さらに、前金でもらえるようなモデルになるとマイナス(早い回収による資金繰りの良化)になります。語学学校や、エステをはじめとした企業が、チケットやクーポンを熱心に前売りする理由はここにもあると思われます。

とは言っても、前金でもらえるようなビジネスモデルをつくるのは大変なことで、ブランド・信用を積み上げていくには通常、大変時間がかかりますし、前払いへプライシングを変更することが顧客離れにつながる可能性もあり、判断に苦しむところだと思います。


資金の効率性−キャッシュ・コンバージョン・サイクル
どんな商売をやるかで必要なキャッシュは大きく変わっていきますが、同じ商売でもやり方次第で大きく変わります。資金の効率性を表す「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」という用語を目にされたことはありますか。たまに日経新聞にも出ているようですが、私自身にはあまり馴染みのない言葉でした。これは何かというと、何のことはない、昔(?)の言葉で言う「運転資金回転期間」のことです。直訳すれば「お金に転換する期間」で、運転ナントカよりこっちのほうが分かりやすいという理由で使われるようになってきたのかもしれません。

どのように使われているか、ちょっと古い記事から抜粋しますと、「2007年度のソニーは製造から販売、現金回収まで時間がかかり、在庫と運転資金が膨らみがちな体質で、キャッシュ・コンバージョン・サイクルは51日。これはパナソニックの39日より長い。米アップルや任天堂に至ってはマイナス」とあります。(2009年3月25日付 日本経済新聞 朝刊より)

米アップルはマイナスとありますが、どれ位なのでしょうか。アップルの決算書から計算してみました<図3>。なんと、売上(利益)を計上する1ヶ月も前にお金を回収できていることになります。すごいですね。1990年代後半には+30日もあったものを、製品の絞り込みや一括購買で短縮して2000年にはマイナスに。iPodが一気に拡販できたのも、これを原資にできたからだそうです。

%90%7D%82R%81%40%83A%83b%83v%83%8B%8E%96%97%E1.JPG
出所: https://www.apple.com/investor/
(ところで、アップルの年度決算日は9月25日というのを初めて知りました。末日じゃない決算ってあるのですね。)

事業価値とキャッシュフロー
次回は資金調達についてのお話ですが、この回の最後に、資金調達とも関連の深い事業価値についてお話ししたいと思います。

事業計画を作成し、これくらいの価値の事業を産み出していくということも事業計画に示して、投資家や金融機関からお金を調達していく、もしくは将来のキャピタルゲインの目標を示して一緒に事業に取り組む仲間を集めていきます。将来何十億、何百億となる事業の設計図、製造工程表とも言えます。

この事業価値の計算はキャッシュフローを用いて行います。事業が将来にわたって生み出すキャッシュフローを現時点の価値に置き換えたもの(いわゆるディスカウントキャッシュ・フロー)の合計で計算し、会計の利益では計算しません。

一方で、株価企業価値の増減や、企業の評価に使われる株価が割安か、割高かを判断するのにはPER(株価収益率)がよく使われています。株式投資のご経験のある方にはおなじみの指標です。株価と比較した倍率で、割高か割安かを測る方法をマルチプル法といいますが、PERは株価と1株利益を比較した倍率です。

何かおかしいと思われたことはありませんか。事業価値を測るのはキャッシュフローじゃなかったのか?PERは利益との比較ですよね。株価とキャッシュフローを比べるPCFR(price to cash-flow ratio)というものもありますが、ほとんどファイナンスの本でしかお目にかかることはありません。私自身、なぜ、企業価値はキャッシュフローを元に算出するのに、株価では会計利益が使われるのか疑問に思っていたのですが、このコラムを書くこの機会にその理由を考えてみました。

キャッシュフローを計算する要素として設備投資がありましたね。将来の成長に向けて積極的に設備投資をしたタイミングなどではキャッシュフローは大きく下がってしまいます。一方、利益はその効果の発揮が期待される期間で按分して費用が計上されるので、投資した段階で大きく減ったり、翌年以降大きく増えたりすることはなく、ブレはなくなります。

キャッシュフローも将来にわたって長い期間を見ればこういったブレの影響はなくなりますが、実績の利益や、来期予想利益等の単年の数値を使用するマルチプル法では、会計利益をベースにしたPERが、ブレが少ないことから比較がしやすく、キャッシュフローを元にしたPCFRよりよく使われているのではないかと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。それでは次回は、資金調達のお話をしていきます。

%8E%E6%92%F7%96%F0%83t%83B%83i%83%93%83V%83%83%83%8B%83O%83%8B%81%5B%83v%83O%83%8B%81%5B%83v%83%8A%81%5B%83_%81%5B%20%8CI%89%AE%81%40%8F%83%88%EA.jpg
フィナンシャルグループ グループリーダー
栗屋 純一