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事業立ち上げのポイント

第2回「実践編 その1(人材調達)」<前編>

新規ビジネスを企画する、準備する、立ち上げて軌道にのせる。そのプロセスの途中には様々な困難や課題が待ち受けています。まだ形のない新しい事業を順調にスタートさせ、さらに大きく育てていくためには、あなた個人の一人の力だけではなく、内外を問わず多くの方の協力が必要です。
「事業立ち上げのポイント」では、特別企画として連載で、起業・新規事業立ち上げ時に必要となる知識や実務について起業の専門家が解説していきます。

第2回目のテーマは、「起業・新規事業立ち上げを支える人と組織 〜実践編その1」として「人材調達」について。前編・後編に分けてお送りします。

 ※第1回「起業・新規事業立ち上げを支える人と組織 〜基礎編」はこちら

≪前編≫

前回は、起業・新規事業立ち上げを支える人と組織の基礎編として、起業・新規事業立ち上げフェーズでは自社のビジネスの理念を明確にし、その基本理念に沿った人材戦略を展開していく必要があることと、そのベースとなるべき起業(企業)の理念・ミッション・ビジョンについてお話しをしました。

今回は、「実践編 その1」として、実際に戦力として活躍する人を調達する「人材調達」について述べたいと思います。ここで「採用」と言わずに、「調達」という言葉を使うのは、企業で活躍していただく人材リソースは、正社員、契約社員、アルバイト・パートタイマーといった直接雇用の人材だけではなく、派遣社員、業務委託・請負、アウトソーシングなどなど、さまざまな契約形態の人材がおり、起業・新規事業立ち上げフェーズでも、それらを上手に組み合わせながら、活用していくということが必要になってくるからです。今回は、このように広い観点から「人材調達」について掘り下げていきたいと思います。


■人材調達は経営戦略の一つ

まず、認識しておかなくてはいけない重要な点として挙げられるのが、「人材調達」は大事な経営戦略の一環として取組むものだということです。いくらいいビジネスモデルや商品、サービスがあっても、それを生かすも殺すも、マネジメントも含めた、そこで働く人次第です。事業を起こすのも、事業を拡大するのも、そこで働く人ですから、事業を大きくしていくことと、その成長を支える人材を調達することはセットで考えなくてはなりません。
自分たちの事業を成長させるのに最も相応しい人材とはどのような人材で、どのような形態で活躍してもらうのが一番相応しいのか、そのような人材はどこにいて、どうすれば最も効率的に調達することができるのかを徹底的に考え、実行することが重要です。

それゆえ、人材調達は安易に妥協することなく、考えに考え抜き、細心の注意を払って行うべきものなのです。特に、社員としていったん採用すれば、企業としての責任が生じ、日本の法環境からもそう簡単に辞めさせることはできなくなります(もちろん、社員以外の契約形態でも安易な解除ができないのは言うまでもないことですが)。
だからこそ、きちんと戦略的に調達に取り組む必要があるのですが、現実は安易な妥協の産物として人材調達を行ってしまい、その人材に思い通りのパフォーマンスを発揮してもらえず、対応に悩んでいる企業も散見されます。これは、人材調達が経営戦略の一環であるという最も重要な点が本当に認識されていない結果なのではないでしょうか。


■起業(企業)の「理念」に共感でき、「価値観」を共有できる人材であること

では、経営戦略の一環として調達する、事業に最も相応しい人材とはどのような人材なのでしょうか。それは、何と言ってもその企業(起業)の「理念」に共感できる人材です。これは、直接雇用する社員だけでなく、派遣社員や業務委託などの外部スタッフも同じです。

お客様にどのような付加価値(商品・サービスなど)を提供し、社会に貢献していこうとしているのか、この原点ともなるべき理念に共有してもらわない限り、そのメンバーにどんな時にも本気になってその事業にコミットしてもらうこなど期待できません。特に創業期のコアメンバーともなれば、この基本のベクトルが合わなければ致命的です。事業を成功させるための「人材調達」において、この部分だけは絶対に外してはいけません。

今、誰もが知っている大企業をはじめ、さまざまな企業で、企業理念・ミッション・ビジョンが見直されたり、再定義されたり、あらためて明文化されたりしています。これは、国籍・人種含めて多様な人材が企業の中に多く存在し、その人たちの価値観も多様化する中で、厳しい企業間競争を勝ち抜くためには、社員のベクトルを一方向に向け、力を結集しないと難しいということに多くの企業があらためて気づき始め、一斉に軌道修正が試みられているからにほかなりません。
いわんや、創業間もない企業がバラバラの方向を向いたメンバーで構成されているとしたら・・・・。あらためて言うまでもありません。

「理念」の共感に加えて、もう一つ大事なポイントがあります。それは、創業者、創業期の立ち上げメンバーと仕事に対する「価値観」が共有できる人材であるということです。

結婚ではありませんが、富める時も病める時も、事業が好調な時も苦しい時も、立ち上げメンバーは常に一緒です。大きな企業で当たり前のように行われる部署間異動や転勤といったことは期待すべくもなく、狭いオフィスの中でいやでも四六時中顔をつき合わせることになります。そのような状況の中、価値観の違うメンバー、極端な言い方をすれば、生理的に合わないメンバー同士でどうして一緒に苦しい創業期を乗り切ることができるでしょうか。

いくら企業(起業)の「理念」を共有していても、仕事に対する価値観が異なれば、どこかで行き詰まることは容易に想像ができます。みんなが苦しんでいる時に、社員としての権利ばかりを主張して身勝手な行動をされたらどうなるでしょう。浪花節的と思われるかもしれませんが、集団のパワーの源泉は、実はこんな単純なところに隠れているものなのです。

「価値観」が異なる人や、この人と一緒に働くのはいやだと思えば、採用(調達)しなければいいのです。そんな簡単なことで未然にリスクを減らすことができるにも関わらず、背に腹は代えられないとばかりに闇雲に人を採用(調達)してしまう企業がいかに多いことか。もっとシンプルに考えるべきではないでしょうか。

またこう言うと、「多様な価値観を持つ人材が寄り集まることにより新たな知が創造される」「ダイバーシティ(diversity)という世の中のトレンドに反する」「大人の対応をすれば問題ない」という反論が聞こえてきそうですが、あくまでもゴールは事業の成功です。
成功に向かって今、何を優先し、やるべきなのか、もう少し合目的的に考えるべきではないでしょうか。これらの反論を否定するつもりはありませんが、どこまでが許容できる範囲で、どこまでが許容できない範囲なのか、或いは、この一線だけは絶対に譲れないところは何なのかと考えていけば、おのずと答えは見えてくるような気がします。ゴールに向かってもう少し素直に向き合ってはいかがでしょう。


■「最上級のおもてなし」を提供するという「理念」を共有する

タクシー業界において、独自の経営戦略とユニークな取り組みで、異端児扱いをされながらも成長を続けるMK(エムケー)タクシー。ご存知の方も多いと思います。
エムケータクシーは、自分たちを単にお客様を目的地に運ぶ従来のトランスポーターではなく、「最上級のおもてなし」を提供する、いわゆるホテル業のようなサービス業であると位置づけ、他のタクシー会社とは一線を画す徹底的な教育をはじめ、さまざまな取り組みを行ってきました。継続的に行われる厳しいマナー研修や清掃訓練、語学研修等々は、エムケータクシーが本気になって自分たちの目指す「最上級のもてなし」をお客様に提供しようという「理念」の実践にほかなりません。

そうなると、エムケータクシーが採用する人材もおのずと他のタクシー会社とは異なってくるわけです。すなわち、「最上級のおもてなし」を提供するサービス業としてのタクシー会社という基本の「理念」に共感できる人材こそが、エムケータクシーが本当に必要とする人材なのです。単に運転技術が優れているとか、タクシードライバーになりたいだけの人がエムケータクシーの門をたたいてもらっても、目指す方向性が違っているわけですから困ってしまうわけです。

さらに、エムケータクシーでは、「理念」を共有し社員のベクトルを合わせるために、「最上級のおもてなし」の原点を醸成するための研修を入社後約10日間かけて行っています。エムケータクシーの「理念」や目指す方向性に共感できなかった人材は、この研修の段階で脱落していくと言われています。

このように、自分たちの「理念」を共有するための仕組みを入口の段階で設けるがゆえに、同じ理念、同じベクトルを向いた社員が集まり、それを数々の研修などによって熟成するからこそ、それぞれが最高のパフォーマンスをあげるようになり、この厳しい経営環境の中でも企業を成長させることができるのではないでしょうか。


■人材調達は企業文化を構築すること

このように「理念」や「価値観」を共有することが重要だと言っているのは、それが企業文化を構築していくことになるからです。自分たちの会社をどんな会社にしていくかを考えながら、その文化に適した人材を一人ずつ調達していく。こうして集まったメンバーが、思いを一つにしながら事業の成功に向かって一気に突っ走りながら、同時にその企業の根幹となるべき企業文化を一緒に構築していくのです。
そんな企業づくりの基礎となる重要なプロセスに本来、妥協やブレがあってはなりません。

創業メンバーを中心とした堅い結束を誇るファミリー企業にしたいのか、実績と実力だけで生きていく弱肉強食の純粋成果主義の企業にしたいのか、年功序列と組織のヒエラルキーを重んじる体育会系企業にしたいのか、それらの組み合わせのハイブリッド型の企業にしていくのか、を創業メンバーが自分たちで徹底的に考え、それに沿った人材調達を行う必要があります。そして、構築しようとする企業文化の違いによって人材の活用方法も変わってきます。

今が旬の即戦力だけを活用しどんどん新陳代謝させていくのか、ポテンシャル人材をじっくり育成しながら活用していくのか、新卒を定期的に採用しじっくり育成していくのか、外国人をはじめとするバラエティー富んだ人材を集めて活用するのかなどなど、その方法はさまざまです。
これらに正解はありませんが、人材調達とその活用が企業文化を構築する重要なプロセスだということを常に意識することが重要です。

企業文化を構築していくには、これらに加えて社内のルールや、人材育成の仕組みや、評価制度などで補完する必要があるのですが、これについては、「実践編 その2」で詳しく解説していきたいと思います。


次回は、「起業・新規事業立ち上げを支える人と組織 〜実践編その1(人材調達)」<後編>をお送りします。

コーポレー
トサポートグループ グループリーダー 寺田 研治郎
コーポレートサポートグループ    グループリーダー
寺田 研治郎