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事業立ち上げのポイント

ファンをつかめ!チーム戦略〜もう1つの戦い

ファンをつかめ!プロスポーツ業界のチーム戦略 もう1つの戦い


日本の2大プロスポーツ業界「プロ野球」および「日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)」についての後編です。プロ野球、Jリーグそれぞれ独自の取り組みでファンを増やしている球団・クラブをご紹介します。
 
▼前編はこちら▼
http://www.m-out.jp/point/2010/09/2.html


■プロ野球業界 ファンのロイヤル化に「CRM導入」

前編でも触れましたが、プロ野球業界では、親会社に頼った球団経営から脱却するべく、入場料収入や興行関連収入を増やすことが求められています。そのために取り組み始めたのが、CRMシステム強化によるファンの囲い込みです。ロイヤルカスタマー化させ、成果を出しているチームも出てきています。


【事例1】業界での先駆者 千葉ロッテマリーンズ

千葉マリンスタジアムを本拠地とする千葉ロッテマリーンズ。マリンスタジアムの所有者は千葉市ですが、2006年、「指定管理者制度」により同球団がスタジアムの指定管理者となっており、球場運営まで行っています。これにより、球場内の売店設置や広告看板の設置、球場を使ったイベント運営等が球団側の権限で行えるようになり、ファン取り込み施策のための第1歩となりました。

これと同時期、業界では初の試みとなるCRMシステムの導入を決定。「MIX」という千葉ロッテマリーンズ独自のCRMソフトを開発し、2006年より稼動しています。同球団ではファンを26番目の選手(ベンチ入りする選手数が25名のため)と位置づけ、「TEAM26」というファンクラブを組織しています。このファンクラブを中心に、MIXを活用してポイントシステムを導入しました。物販や、チケット販売、来場記録など、顧客データベースを構築。また、ANAと業務提携を行い(2011年1月終了予定)、ファンクラブでのポイントとマイレージの交換を可能にするとともに、ANAのもつ顧客管理ノウハウを球団経営に積極的に取り入れました。
この先進的な取り組みが功を奏し、導入前の2004年には3万人だったファンクラブ会員は、導入後の2006年には7万5000人を突破しました。チケット販売収入も倍以上となり、大きな成果を挙げています。


【事例2】「常勝」チーム、観客動員でも「常勝」なるか 埼玉西武ライオンズ
 
「常勝」と呼ばれた埼玉西武ライオンズも、観客動員数となると本拠地である西武ドームの所在地が不利なこともあってか、あまり振るわない状況が長年続いていました。観客動員率は50%以下。 
しかし、ここ数年で状況はかわってきています。その要因として挙げられるのが、千葉ロッテマリーンズと同じように、球団が球場運営も行えるようになったことと、CRMシステムを強化したということです。

2008年にCRMシステムを導入した同球団は1年で入場料収入を2倍に増やすことに成功しています。ポイント還元システムにより顧客を囲い込むだけでなく、同球団はコアなファンに狙いを定め、まずそれらファンのロイヤリティを高めることに注力しました。
例えば、会員特典として配布される無料チケットの席のグレードアップや、会員グッズの品質アップ、チケット購入額に伴ってポイント還元率を上げる、といったことです。これらの取り組みにより、ホームゲームでの来場者数は導入前に比べ1.5倍ほどに増加しています。


【事例3】ついに王者も腰を上げた 読売ジャイアンツ

CRMシステム導入は、もともと放映権による収入が少なかったパ・リーグが先行しています。しかし、前回も取り上げたように近年では、セ・リーグでも方向転換が求められており、ファンの取り込みが重要視されてきています。そんな中、セ・リーグで成果を上げているのが、読売ジャイアンツです。

もともと全国でも圧倒的な人気を誇り、1,2を争う観客動員数を記録している同球団が、CRMで集客強化に力を入れ始めたのは2006年のシーズンオフ。2005年に5位、2006年は4位と成績が振るわず、観客動員数にもかげりが見え始めた時期でした。ファンクラブ組織として「G-Po」を新たに立ち上げ、ポイントシステムを導入。来場や巨人軍の勝利、またグッズ購入時にポイントを貯めることができます。ポイントは限定グッズへの交換などに利用できます。また、会員特典として選手の打撃練習を間近で見ることができたり、ファンフェスタへ参加(抽選)できたりと、ファン心理をくすぐる特典が多くあります。

このポイントシステム導入により、来場者の属性を把握・分析できるようになり、観客数増加に貢献しています。成果を上げた仕組みのひとつが、「Myヒーロー登録」です。シーズンのはじめにお気に入りの選手を登録しておくと、その選手がヒーローインタビューに上がるたびにポイントが付与される仕組みなのですが、これをダイレクトマーケティングに利用したのです。 
例えば、ある1日を「ラミレス・デー」としてラミレス選手をヒーロー登録しているファンにダイレクトメールを送って来場を呼びかけたところ、なんとそのメールを受け取ったファンの約4分の1が来場したとのこと。確度の高いファンに効率的にアプローチできる仕組みとして活用できます。


■Jリーグのキーワードは地域への「密着」と「還元」

Jリーグで圧倒的な観客動員数を誇るのが、浦和レッドダイヤモンズ(以下、浦和レッズ)です。2009年J1リーグの1試合あたりの平均入場者数が19,126人だったのに対して、浦和レッズは44,209人というのですから、そのすごさがわかります。
(スタジアムの収容人数はクラブごとに異なるので一概には言えないですが)
Jリーグ開幕当初から比較的観客数は多かったとは言っても、2003年には1試合あたり観客動員数は3万人に満たない数でしたので、これだけ動員数を増やしているのはやはり驚くべきことです。

Jリーグでの観客数動員施策キーワードは「地域密着」。近年はプロ野球でも取り入れられつつありますが、前編でも述べた通り、Jリーグでは設立当初から意識されていたことです。各クラブによりその取り組みには差がありますが、新潟アルビレックスの事例にもよく取り上げられる地元住民への「無料チケット」配布が一般的です。その他にも地域にサポートショップをつくったり、地元交通機関の利用でチケットが安くなったり、スタジアム内ではハーフタイムイベントを充実させたりとさまざまです。

そんな中、浦和レッズの取り組みはというと他クラブとはやや異なります。もともとサッカーファンの多かった土地柄、本物志向としてサッカーに関係のないサービスは極力排除し、純粋にサッカーを楽しめる環境づくりに力を入れているのです。また、地元住民に無料チケットの配布は行わず、そのかわり地元住民にはチケットの先行予約販売を行ったり、地域還元としてチームで賞金を獲得できた場合に、サッカーボールなどの寄付を行っています。
また、コミュニティ形成にも力を入れており、スタジアムには試合の前後にファン同士が交流できるような場所があったり、サッカーだけにとどまらないスポーツランドを運営していたりと、浦和レッズを中心にファン、地域住民が集まれる環境ができているのです。

Jリーグ公式サイトによると、試合観戦時の同伴者数はJリーグ全体平均が3.0人であるのに対して、浦和レッズは5.1人。多くの仲間と一緒に応援をするというスタイルが定着しているのではないでしょうか。浦和レッズには「オフィシャル・サポーターズ・クラブ」という制度があり、ファンが3人以上集まって登録すれば、浦和レッズ認定のクラブになることができ、「公認サポーターズ・フラッグ」(大応援旗)を得ることができます。仲間と連れ立って応援でき、また全体的な一体感も生まれるという仕組みです。
リピート率の高いファンにしていくとともに、サポーターが新たなサポーターを生むという好サイクルにもつながっているようです。


■競合は敵チームだけではない 

プロ野球球団は親会社の影響が大きく、横断的な取り組みというよりも個々の球団力での取り組みを行っていますが、2007年にパ・リーグではマーケティング会社を立ち上げ6球団共同でのマーケティングにも取り組み始めました。母体が一括管理をもともと行っているJリーグでも新たな取り組みが始まっており、2009年からは非接触ICカードを用いた観戦試合記録やチケット譲ることのできるシステムの全スタジアムへの導入ということも行い始めています。これは今後のチケット購買方法まで影響がありそうな画期的なシステムと言えます。
 
「時間消費型サービス」といわれるスポーツビジネス。
さまざまなエンターテインメントが増えた今、ただ試合を開催する、勝利するというだけでは観客は集まりません。競合は他チームだけでなく、飲食店、映画、コンサート、カラオケなどスポーツとは別のところにも存在し、その中から自チームの試合観戦に時間を使ってもらわなければならないのです。
チームの集客力は、経営のやり方次第で大きく変わってきています。単なるスポーツとしてではなく、エンターテイメントとして試合観戦を捉え、チームの強さだけでなく、他業界と同じように顧客満足度を上げ顧客をロイヤル化していくということを実現できている経営母体が注目を集めています。

集客できているチームがどのようにしてこれまでの業界慣習や構造を改革し、新たな道を進み始めているのか、はスポーツ業界でなくとも活かせる部分があるのではないでしょうか。

エムアウト  高野公美子
   
高野公美子