事業立ち上げのポイント
業界の矛盾を革新原動力に〜ライフネット生命@
≪インタビュー企画≫
業界の矛盾を革新の原動力に 〜ライフネット生命保険 出口社長〜
「生活者にとって便利でわかりやすい保険を正直に低価格で提供したい」という熱い想いのもと、戦後初の独立系生命保険会社を立ち上げた、ライフネット生命保険株式会社の出口治明社長。
週刊ダイヤモンドにおけるプロが選ぶ(死亡保障部門)「自分が入りたい保険」では同社の死亡保険(定期)「かぞくへの保険」が第1位になるなど、注目を集めています。
出口社長にお話いただいた起業の経緯や経営者としての信念などを2回にわたってお届けします。
<前編>
―起業される前に感じていた「保険業界」の矛盾についてお聞かせください。
矛盾は、社会のありとあらゆるところに存在しています。たとえば私達が住んでいるこの日本の社会にも、いいところもあれば悪いところもあって、普通に生活していれば矛盾を感じる場面が多々あると思います。保険業界に限らずどんな業界にも矛盾が存在しているのです。
何も生命保険に限りませんが、今後少子高齢化が進む日本において、人にモノを売っている商売は、人口が減れば当然陰りが出てきます。
私は生命保険会社で働いていましたので、少子高齢化には早くから気がつくことができました。1985年頃に、保険会社が少子高齢化の時代に生き残っていくためには、3つの方法しかないと考えました。
1つは、生命保険の引受以外の他の事業を行うこと。たとえば損害保険とか投資顧問とか、別のジャンルを開拓することですね。
2つ目は、日本だけではなく、中国なども含め世界に進出していくこと。
3つ目は、セールスパーソンが主体となって販売するという既存のビジネスモデルを転換すること。人口が減少すれば、お客様が減る前にセールス自体が減るおそれがあるからです。これまでとは違うビジネスモデル、人を販売のメインチャネルとして使わないビジネスモデルを考える必要があったのです。
考えるといっても、人間はそんなに賢くはないので、ゼロから新しいアイデアを生み出すことはなかなか難しいのですが、広く世界を見渡せば意外とアイデアは出てくるものなんです。
たとえば、少子高齢化が進んでいるヨーロッパの保険会社がどうしているかというと、すでに他業に手を伸ばしたり、他国へ進出しているんですね。他国や過去の事例を参考にすればいい。
これを私は縦横思考と呼んでいますが、世界の人がどうやっているか、過去の人がどうやっているかを参考にすればだいたい良いアイデアが出てくるのではないでしょうか。
1つ目と2つ目については、前職の日本生命時代にチャレンジする機会を与えられましたが、3つ目のビジネスモデルの転換を検討するには、すでにセールスパーソンを抱えている大手保険会社には難しいものがありました。
―起業のチャンスはどのように訪れたのでしょうか?
2003年に日本生命から子会社へ出向となった時に、日本生命の諸先輩に教えていただいた生命保険の本来的な姿を若い世代に伝えたい、いわば「遺書」となるようなものを残したいと思って「生命保険入門」という本を出版しました。
その後、2006年に友人の紹介を通じて、あすかアセットマネジメントの谷家さんに出会ったのが起業のきっかけです。
「保険業界に詳しい人を探している」ということで紹介されたのですが、谷家さんに出会って「一緒に保険会社を作りましょう」とお誘いを受けたんですね。
ただ、もう遺書も書いてしまっていたし、保険業界に戻ることはないだろうなと思っていたのですが(笑)、谷家さんがとてもチャーミングな方だったので、その場で「いいですよ」と即答してしまったんです。
―普段から「即断即決」の出口社長ですが、起業するという決意も即断即決でいらっしゃったんですね。
そうですね。
即断即決というと「直感」のようにも聞こえますが、直感というものは自分の58年間のキャリアを踏まえて脳がフル回転して瞬時に判断した結果なんですね。
谷家さんに誘われたのは一種の運ですし、起業のチャンスとは、いわば宝くじに当たったようなものです。そんなに誰にでも起業のチャンスが巡ってくるわけではありません。ラッキーな分だけ、ラッキーじゃなかった人のためにも必死にやらなければならないと思い定めました。
一度「遺書」を書いて保険業界から離れたわけですから、一切「前例」にとらわれずこれまでの古い自分を捨てて、自分が消費者だったらという立場で考えたまったく新しい保険会社をゼロから創ってみようと強く決意しました。
―そうして、ライフネット生命保険のコンセプト「保険料半額」「約款公開」「原価開示」などが出来上がったんですね。
もともと、ネット生保の構想は起業のお話をいただく前からできあがっていたのですが(生命保険入門にも書きました)、その時はまだ風が吹いていなかったというか、タイミングが合わなかったんですね。
現在の保険商品は、プロですらわからないくらい非常に複雑になっています。
一つ面白い話があって、金融庁の金融審議会で、ある委員の方が「▲▲病になったときに保険が支払われる定義を教えてください」と質問したのですが、当該会社の担当者が、その正確な定義を「約款」から探し出すのになんと1時間半もかかったというエピソードがあったということです。
約款にどんどん新しい情報が付け足されていくので、知りたい情報がまとまって書かれていなかったりするんですね。プロでさえ探し出すのに苦労する約款であれば、消費者が保険商品の約款を読めなくて当然です。
さらに、約款は、ほとんどのケースで保険を申し込むまで消費者が手にすることはできず、購入する保険商品はパンフレット等だけで判断しなければならないので、生命保険の中身がよくわからないまま商品を購入しなければならないというのが現状です。
「保険はわかりにくい」「難しい」と思われてもこれではしょうがないですよね。
だからこそ、わかりやすい約款を作って、不必要な要素はとことん捨てて、極めてシンプルでわかりやすい保険商品を正直に作ろうということにこだわったのです。
(後編へ続く)
※後編は事業立ち上げから経営者としての心構えをお届けします。
